−店員の証言−

ええ、そうなんです。レジ横をものすごい勢いで通り過ぎていったんです。いやあ職業的なカンですねぇ、こりゃぁ何か起こるなって思った私は、お客様の後を追いました。するとお客様は、え? ああ、度胸千両さんとおっしゃるんですか、はあ。その度胸千両さまは、暖簾をくぐると左側を「チラッ」と見やり、何を思ったか非常口にむかって前傾姿勢で猛然と駆けていきました。ええ、そのままマッスグ走ってしまえばドアにぶつかってしまいます。いやな予感が走りましたとも。そして案の定です。すごい勢いで非常口のドアに頭から激突されて、そのまま倒れられたんです。 え? トイレにいきたかった? そーですか。でもお手洗いは右側なんですよね。ともかく驚きましたよ。あんなお客様は初めてです」



そらそーでしょうよ。どこの世界に火事でも地震でもないのに非常口に突進するアホがおりますか。店員さんの話を聞き終え一行が戻るのを待っている川中。どうしちゃったんだ度胸千両よ。

しばらくすると一行が戻って来た。しかし、度胸千両はいない。聞けば、酔っ払っているし、頭と膝を強く打って痛みがひどいらしいので帰したとか。賢明な判断です。やる気になればまともな判断も出来るんじゃんブチョー殿よ。いつもそうあって欲しいもんだ。さて、しかし、何故にそんなことになってしまったかというと、


「酔っていた上に焦っていてので右と左がわからなくなって、パッと目に飛び込んできた扉を雪隠だと思い込んで突進してしまったんです」


と息も絶え絶え、半分死んだようになりながら度胸千両は語ったらしい。


川中 「粗相はなく、無事にことを終えられのですか?」
部長 「いや、粗相はなかったが、いろいろ大変だったさ、そりゃ。しかし、本人の名誉のためにこれ以上は言えん。いくら聞いたっていわんからな、絶対に。な、T君」


・・・なんかホントは聞いて欲しいみたいな口ぶりだが、それ以上は聞かないことにした。だって察しはつくじゃないですか。
うーん、しかし、非常口のドアって、どっからどう見たってトイレのドアに見えないと思うんだよなぁ。シラフになった度胸千両との会談を切実に希望いたす川中なのでした。


ビックリして酔いもさめる ―完―